ジャック・プレヴェール
jacques prevert

「葬式に行くカタツムリの唄」

死んだ葉っぱの葬式に
二匹のカタツムリが出かける
黒い殻をかぶり
角には喪章を巻いて
くらがりのなかへでかける
とてもきれいな秋の夕方
けれども残念 着いたときは
もう春だ
死んでいた葉っぱは
みんなよみがえる
二匹のカタツムリは
ひどくがっかり
でもそのときおひさまが
カタツムリたちに話しかける
どうぞ どうぞ
おすわりなさい
よろしかったら
ビールをお飲みなさい
お気が向いたら
パリ行きの観光バスにお乗りなさい
出発は今夜です
ほうぼう見物できますよ
でもわるいことは言わないから
喪服だけはお脱ぎなさい
喪服は白目を黒ずませるし
故人の思い出を
汚します
それは悲しいこと 美しくないこと
色ものに着替えなさい
いのちの色に
するとあらゆるけだものたちが
樹木たちが 植物たちが
いっせいに歌い出す
声を限りに歌い出す
ほんものの生きてる唄を
夏の唄を
そしてみんなはお酒を飲み
そしてみんなは乾杯し
とてもきれいな夕方になる
きれいな夏の夕方
やがて二匹のカタツムリは
自分の家へ帰って行く
たいそう感激し
たいそう幸福なきもちで帰る
お酒をたくさん飲んだから
足はちょっぴりふらつくが
空の高い所では
お月様が見守っている。

「演奏会は失敗だった」

わるい時代の友人諸君よ
どうぞゆっくりおやすみください
ぼくは出立いたします
儲けはまるで少なかった
それはぼくのせいです
わるいことはみんなぼくのせいです
諸君の意見に耳傾けて
むく犬の唄でも演奏すりゃよかった
皆に受ける音楽をね
でもぼくはあくまで我を張って
じきに癇癪を起こしちまった
硬い犬の毛を弾くときには
弓の使い方が肝心です
だれがわざわざ音楽会へ
物凄い遠吠えなんか聴きに来るものか
それにあの犬殺しにつかまった犬の唄
あれが何よりも最大の間違いだった
わるい時代の友人諸君よ
どうぞゆっくりおやすみください
ねんねして
夢でもみなさい
ぼくは帽子をかぶり
残りのタバコ二三本掻き集めて
出立いたします・・・・・・
わるい時代の友人諸君よ
いずれはときどき
ぼくのことを思い出してください・・・・・・
目がさめたら
思い出してください どこかで海豹や
薫製の鮭の唄を演奏している男のことを・・・・・・
夕ぐれに
海のほとりで演奏がすんだら
男は帽子をまわして金を集め
その金でたべものを
飲み物を買う・・・・・・
わるい時代の友人諸君よ
どうぞゆっくりおやすみください・・・・・・
ねんねして
夢でもみなさい
ぼくは出立いたします。

「血まみれの唄

世界には大きな血溜まりがたくさんある
ぶちまけられたその血はどこへ行くのか
地球がその血を飲んで酔っぱらうのか
だとすれば妙な酔いっぷりだ
とてもおとなしい・・・・・・とても単純な・・・・・・
いや 地球は酔わない
斜にまわったりしない
地球は規則正しく小さな手押し車を 四つの季節をおしてゆく
雨・・・・・・雪・・・・・・
雹・・・・・・晴天・・・・・・
決して地球は酔っぱらわない
ときどき不幸な火山をもてあそぶが
それも滅多にない
地球はまわる
いっしょにまわる木・・・・・・庭・・・・・・家・・・・・・
いっしょにまわる大きな血溜まり
生きものはすべて地球といっしょにまわって血を流す・・・・・・
地球は
知らん顔
地球はまわり生きものはすべて悲鳴をあげる
地球は知らん顔
ただまわる
休みなくまわる
血も休みなく流れ・・・・・・
ぶちまけられたその血はどこへ行くのか
殺人の血・・・・・・戦争の血・・・・・・
貧乏の血・・・・・
刑務所で拷問される人の血
パパとママに静かに拷問される子供の血・・・・・・
独房で
頭から出血している男たちの血・・・・・・
滑って屋根から落ちた
屋根屋の血
赤ん坊といっしょに・・・・・・新生児といっしょに
流れ出し大波のように打ち寄せる血・・・・・・
母親は叫ぶ・・・・・・子供は泣く・・・・・・
血は流れる・・・・・・地球はまわる
地球は休みなくまわる
血は休みなく流れる
ぶちまけられたその血はどこへ行くのか
警棒で殴られた人の血・・・・・・辱められた人の血・・・・・・
自殺した人の・・・・・・銃殺された人の・・・・・・処刑された人の血・・・・・・
そして普通に・・・・・・事故で死んだ人たちの血
街を一人の生きた男が歩く
体のなかには血がたっぷり
ところがそいつはぽっくり死ぬ
血はすっかり外に出る
ほかの生きた男たちが血を洗い流し
死体を片付ける
だが血のやつは強情だ
死人がいた場所に
ずっとあとまでほんの少し
黒い血が残る・・・・・・
凝固した血
いのちの錆 肉体の錆
牛乳のように固まった血
牛乳のように体内をまわる血
地球のように休みなくまわる血
血のように地球はまわる
いっしょにまわる牛乳・・・・・・牝牛・・・・・・
一緒にまわる生者・・・・・・死者・・・・・・
地球といっしょに水がまわる・・・・・・生きものが・・・・・・家が・・・・・・
地球といっしょに結婚式がまわる・・・・・・
葬式が・・・・・・
貝殻が・・・・・・
軍隊が・・・・・・
地球はまわる ぐるぐる ぐるぐる
いっしょにまわる満々たる血の河。

「家族の唄」

おふくろが編物をする
息子が戦争をする
これは当然のこと とおふくろは思う
それならおやじ おやじは何をする
おおやじは事業をする
家内は編物
息子は戦争
わしは事業
これは当然のこと とおやじは思う
それなら息子 それなら息子は
どう思う 息子は
息子はなんとも思わない 何とも
おふくろは編物 おやじは事業 ぼくは戦争
戦争が終ったら
おやじと二人で事業をするだろう
戦争がつづく おふくろがつづく 編物をする
おやじがつづく 事業をする
息子が戦死する 息子はつづかない
おやじとおふくろが墓参りをする
これは当然のこと とおやじとおふくろは思う
生活がつづく 編物と戦争と事業の生活
事業と戦争と編物と戦争の生活
事業と事業と事業の生活
墓場の生活が。

「五月の唄」

ロバと王様とわたし
あしたはみんな死ぬ
ロバは飢えて
王様は退屈で
わたしは恋で

白墨の指が
日々の石盤に
みんなの名を書く
ポプラ並木の風が
みんなを名づける
ロバ 王様 人間と

太陽は黒いぼろきれ
みんなの名前はもう消えた
牧場の冷たい水
砂時計の砂
バラ色のバラの木のバラの花
小学生の道草の道

ロバと王様とわたし
あしたはみんな死ぬ
ロバは飢えて
王様は退屈で
わたしは恋で
時は五月

いのちはサクランボ
死はその核(たね)
恋はサクランボの親の木。

「われらの父よ」

天にましますわれらの父よ
天にとどまりたまえ
われらは地上にのこります
地上はときどきうつくしい
ニューヨークの不思議
それからパリの不思議
三位一体も顔負けで
ウルクのちっちゃな運河
万里の長城
モルレーの小川
カンブレーの薄荷菓子
それから太平洋
チュイルリーの二つの泉
いい人たちとわるいやつら
この世のすべてのすばらしさは
地上にあります
あっさりと地上にあります
あらゆる人にあけっぱなしで
めったやたらに使われて
こんなすばらしさに自分でうっとりして
しかもそれを認めたがらない
裸をはずかしがるきれな娘みたいに

してまたおそろしいこの世のふしあわせ
それは軍隊
その軍人
その拷問係
この世のボスどもと
その牧師 その裏切者 その古狸
それから春夏秋冬
それから年月
きれいな娘と いやな野郎
大砲の鋼のなかで腐ってゆく貧乏の藁。
【参考資料】河出書房『プレヴェール詩集』小笠原豊樹

[DATA WORLD][#11楽園のこどもたち]